
現在、音楽を聴いたり、映画を見たりする時になくてはならないCDやDVD。最近はBD(ブルーレイディスク)も出てきた。BDではDVDの約5倍も記録できる。素晴らしい科学技術である。レコード盤やカセットテープを使っていた、昔に比べればもう十分だとも思う。しかし、科学の最先端では次世代の大容量記録媒体が考えられている。
いったい次はどうやって記録容量を増やすのだろう?ヒントは「光」にある。
CDの読み取りは780nm赤外線レーザーを使う。DVDでは650nm赤色レーザーをブルーレイディスクは405nm青紫色半導体レーザーを使う。光の波長はどんどん短くなってきた。その結果、記憶できる容量もCDで650MB、700MB、DVDで4.7GiB(1層)、8.54GiB(2層)、BDで25GB(1層)、50GB(2層)と増えた。
正解はさらに波長の短い光を使うことだ。次の光「紫外線」は波長が10nm〜400nmであるが、もはや見えない。さらに「X線」ともなると見えないどころか、放射線になる。波長は0.001nm(1pm)〜10nmである。現代の科学技術ではどこまで可能なのだろうか?(n:ナノは100万分の1)
20世紀はエレクトロニクス(電子技術)の時代といわれた。電気製品が工夫され生活は豊かになった。そして21世紀はフォトニクス(光子技術)の時代になるといわれている。もうすでに光通信、CD、DVD、BDなどにフォトニクスが使われている。
19世紀末にレントゲンがX線を見つけ、第1回ノーベル賞を受賞してから時代は急速に発展した。当初、X線は正体が分からないから、X線と名付けられた。レントゲンは自分や奥さんの手を撮って骨が見えることを示して、まず医学関係に広がった。
一方、レントゲンの発見から20年くらいたって、マックス・フォン・ラウエという、ドイツ人物理学者が、X線を結晶にあてると、光のように回折し、独特の模様を描くことを発見した。これをX線回折といい、これによりX線は波長の非常に短い光だということが確認された。1914年マックス・フォン・ラウエはノーベル物理学賞を受賞する。
また、さらに何十年かたって、ワトソンとクリックは、DNAにX線を当てて解析した結果、二重らせん構造をしていることが分かった。いまやタンパクの結晶をつくってX線で見るということは当たり前になっている。
およそ100年前に見つかった新しい光が、100年たって社会の隅々に行き渡り、医学、工学、科学技術などいろいろなところで役に立っている。
もう一つ光の分野では、20世紀の大発明にレーザーがある。簡単に言うと半導体などの原子や分子に電圧をかけ発光させる。そして共振器を通して、光の波長を重なり合わせて非常に強くする。これらのレーザーもいろいろなところで使われている。
現在の最先端ではこの「X線」と「レーザー光」を組み合わせた「X線自由電子レーザー(XFEL)」が実験段階にきている。何とこのレーザーを使うと、たった1個の分子や原子があれば、その構造がわかるほど、波長が小さく、コヒーレントな(精密な)なレーザーである。
大きな歩幅を合わせて、大勢が行進するのは練習すれば可能であるが、小さな歩幅を合わせて、しかも大勢が走って合わせるのは至難の業である。まさに針の穴に糸を通すような精密な科学技術が必要とされた。
参考HP:理化学研究所X線自由電子レーザー(XFEL)計画合同推進本部
→ http://www.riken.jp/XFEL/jpn/whatis/index.html
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(サイエンスポータル 2008年4月22日)
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