2008年ノーベル化学賞
2008年のノーベル化学賞は日本の生物学者下村脩(しもむらおさむ)氏と米国の細胞生化学者ロジャー・ヨンジェン・チエン氏、マーティン・チャルフィー氏に贈られた。
これで、今年の日本人ノーベル賞受賞者は4人となった。また、日本人の化学賞受賞は、1981年受賞の福井謙一氏、2000年受賞の白川英樹氏、2001年受賞の野依良治氏、2002年受賞の田中耕一氏につぎ5人目となった。
受賞理由は「緑色蛍光タンパク質(GFP)の発見とその応用」であり、下村脩氏はその発見者であった。
緑色蛍光タンパク質(GFP)とは何か?
GFPとはオワンクラゲから分離されたタンパク質で、青色または紫外線を当てると緑色の蛍光を発する性質がある。
なぜ、緑色蛍光タンパク質(GFP)の研究が注目されたのだろうか?
現在、このタンパク質は生命化学の実験にはなくてはならないほど重要になっている。例えば「がん細胞」にこのGFPタンパク質をつくらせる遺伝子を付加して発光させ、今どこにどのくらい「がん細胞」があるか把握することができる。
また、分析したい蛋白質に付加して発光させると、その蛋白質の細胞内での存在場所を知ることができる。こういう目印になる遺伝子をレポーター遺伝子というが、GFPタンパク質をつくる遺伝子はレポーター遺伝子として広く普及している。
昨年、私は夏期研修で筑波大学に行き「遺伝子組換え実験講座」を学んだ。そこで実際に「GFP」レポーター遺伝子を大腸菌に組み込んで、発光させてみた。紫外線を当てると緑色に蛍光する大腸菌ができた。米国ではこのような実験を高校レベルで行っており、「遺伝子組換え実験キット」として市販されているものを研修で使用した。
緑色蛍光タンパク質(GFP)の発見
下村脩博士は1961年(昭和36年)夏、留学先の米プリンストン大からシアトル北部の臨海実験所へ向かった。沿岸を大量に漂う「オワンクラゲ」が放つ光の謎を突き止めるためだった。
ホタルに代表される生物の発光現象は当時、ルシフェリンという発光物質と酵素の反応で起きると考えられていた。このため無数のクラゲを網で捕獲し、体内のルシフェリンを抽出しようと実験を繰り返したが、失敗の連続だった。
「何でもいいから光る物質を抽出しよう」。反対する指導教授を押し切って、勝手に実験を始めた。
発光物質を取り出すためには、光らない状態にしておく必要がある。光った後では、その物質は分解されてしまうからだ。「なぜ光るのか。どうすれば抑えられるのか」。ボートをこいで海に出た。寝そべって考えていると、突然ひらめいた。「pHが影響するのではないか」。
実験したところ、抽出溶液を酸性(pH4)にすると光らなくなることが判明。ようやく打開策を見つけて溶液を流しに捨てた瞬間、「流しの中がバーッと爆発的に青く光った」。海水中のカルシウムイオンと反応して強く光ったのだ。
この物質はオワンクラゲの学名にちなんで「イクオリン」と命名。その後も毎年夏、家族総出で5万匹以上のクラゲを捕り続け、17年かけてその発光メカニズムを解明した。取ったクラゲの総数は85万匹!そのおかげで、付近の沿岸からはクラゲが一匹もいなくなったといわれる。
しかし、謎が残った。イクオリンの発光は単体では青色であるにもかかわらず、オワンクラゲは緑色に発光する。オワンクラゲはなぜ緑色に光るのか−。実はイクオリンを精製した際、緑色に輝く微量の副産物を見つけ、捨てずに分析を続けていた。その正体がGFPだった。この物質が青い光のエネルギーを受け取り、緑の光を放出していたのだ。
1960年代は、生物発光に注目する研究者はまれだった。その仕組みに関心を抱いた下村博士は、GFPの利用価値にはまったく興味がなく、特許も申請しなかったという。それがGFPの応用と実用化を後押ししたともいえる。(出典:MSN産経ニュース「何の価値もない物質」が…生命科学に革命的進展)
GFPの発光のしくみ
オワンクラゲの生体内ではGFPとイクオリンと複合体を形成している。細胞内カルシウムを感知して発光するイクオリンは、単体では最大蛍光波長460 nmの青色であるが、オワンクラゲの発色細胞内では、GFPがイクオリンから励起エネルギーを受け、最大蛍光波長508 nmの緑色の蛍光を発する(フォルスター型エネルギー転移)。GFPの緑色蛍光の発色に関しては、下村の一連の研究により提唱された発色団の分子構造モデルをもとに、10数年を経て1990年代になって発色団の分子構造が確認された。GFP分子内での発色団の形成には自己脱水結合のみで充分であり、酵素など他分子の助けを必要としない。
カルシウム濃度をタンパクが感受し発光する、という発想があまりに斬新だったため、イクオリンの発見は驚くべき反響をもって迎えられた。イクオリンはクラゲの発光細胞内で、カルシウムの濃度を感知して、発光するが、その発光原理は、充電したバッテリーにもたとえられる。イクオリンはセレンテラジンという物質を核にもつが、高カルシウム濃度ではセレンテラジンがセレンテラマイドに変化し、このとき発光する。
ただし、カルシウム存在下でのイクオリンの発光は単体では青色であるにもかかわらず、オワンクラゲは緑色に発光する。これは、オワンクラゲの細胞内で、イクオリンが、別のタンパクGFPと複合体をなしているためで、イクオリンの蛍光波長が、GFPに吸収され(フェルスター型エネルギー転移)、緑色にシフトするためである。この発見も、イクオリンの発光原理と同様、下村脩によってなされたものであり、同時に、彼によってGFPも初めて分離・精製されている。(出典:Wikipedia)
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