
「金」などレアメタルを集める細菌
工場排水に含まれる「金」や「プラチナ」などの希少金属(レアメタル)を、微生物の「鉄呼吸」を利用して回収する方法を、大阪府立大の小西康裕教授らが開発した。
従来の方法では水溶液に電流を流して化学反応を起こさせるなど、煩雑な工程が必要だった。「鉄呼吸」を利用する方法では、レアメタルの濃度が低くても回収でき、時間も短く作業も簡略化できる。
具体的には、200ppmの金イオンが溶けた水溶液の実験では、30分でほぼ全量の金を回収できた。同じ濃度の排水1トンならば、200グラムの金を回収できる計算だ。また金のほか、プラチナや、パラジウム、ロジウムの計4種類が回収できた。
99%の微生物のはたらきは未知
微生物のはたらきは、まだまだわかっていないものが多い。私たちは現在、食品や医薬品産業を中心に、多種・多様な微生物を利用しているが、これらは自然界に存在する全微生物の1%にも満たない。残りの99%の微生物は自然界に存在するものの、分離する方法がわからずほとんど手つかずのままである。
細菌発見された深海の微生物の中には、高温・高圧で光や酸素もないところで、硫化水素を利用して有機物をつくる「化学合成細菌」がいた。また地中からは二酸化炭素を利用してメタンを生成する「メタン細菌」が話題になった。そして今回は「金」を集める細菌である。微生物の可能性はすごいものだ。
いったいレアメタルを集める微生物のしくみはどうなっているのだろうか?
金属を集める「鉄呼吸」のしくみ
こう考えると難しそうだが、実は世界中の鉄鉱石をつくったのも微生物であることがわかっている。約35億年前、地球の海の中に光合成を行う「ストロマトライト」があらわれ、大気中の酸素濃度が増え始めた。この時海中には鉄 Fe2+ が溶けていたが空気中の酸素で酸化され(電子を奪って)Fe3+ に変えた。
このはたらき「鉄呼吸」を行ったのが「鉄細菌」であった。Fe3+ は水に対する溶解性に乏しいため水酸化第二鉄Fe(OH)3として、海水から析出し沈殿する。水酸化第二鉄が脱水すると赤鉄鉱Fe2O3となる。こうして長い年月をかけて、現在の鉄鉱石の鉱脈ができたといわれる。今回は「鉄細菌」の「鉄呼吸」を他の金属に応用したのだ。
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レアメタル回収に微生物 「鉄呼吸」活用、割安お手軽
還元細菌の断面。金の粒子が細胞の膜の間に取り込まれている=小西教授提供
工場排水に含まれる金やプラチナなどの希少金属(レアメタル)を、微生物の「呼吸」を利用して回収する方法を、小西康裕・大阪府立大教授らが開発した。従来の方法より作業時間が短く、費用も少なくて済むという。企業にも共同研究を呼びかけ、実用化をめざす。
希少金属は、パソコンや携帯電話に不可欠だが、埋蔵量が少なく、価格が高騰している。
小西さんらは、海や川にすむシワネラ・オネイデンシスとシワネラ・アルジェという微生物のユニークな性質に着目した。これらの生物は呼吸の際、酸素の代わりに泥の中の鉄イオンを取り入れ、別の鉄イオンにして体外に出す性質をもつ。
この「鉄呼吸」をレアメタルの回収に活用できないか研究を進め、鉄の代わりにレアメタルのイオンを取り込み、体内で金属粒子に戻させることに成功した。200ppmの金イオンが溶けた水溶液の実験では、30分でほぼ全量の金を回収できた。同じ濃度の排水1トンならば、200グラムの金を回収できる計算だ。
金のほか、プラチナや、排ガス浄化用の触媒に使われるパラジウム、ロジウムの計4種類が回収できた。
排水からレアメタルを回収する手法はいくつかあるが、大半は、水溶液に電流を流して化学反応を起こさせるなど、煩雑な工程が必要だ。「鉄呼吸」を利用する方法では、レアメタルの濃度が低くても回収でき、時間も短く、作業も簡略化できるという。
金属工場の排水には、鉱石の精錬作業で取りきれなかったレアメタルが多く含まれている。
小西教授は「基礎技術はほぼ確立できた。排水の中で微生物が流出しない工夫を進め、実際に工場で利用できるようにしたい」と話す。(asahi.com 2008年11月10日)
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