ロシアとアメリカの衛星が衝突

 NASAによると、日本時間の2月11日午前2時ごろ、シベリア北部の上空およそ800キロの軌道を回っていたアメリカの衛星携帯電話会社の通信衛星と、現在は使われていないロシアの軍事衛星とが衝突した。この結果、宇宙空間にはすでに500から600個程度の破片が飛び散った可能性があるとしている。

 2月12日、国防総省のカートライト統合参謀本部副議長は、この宇宙ごみへの衝突を避けるため、ほかの衛星が軌道変更するなどの操作が、数十年必要になるとの懸念を表明した。500〜600の大量の破片は高度500〜1300キロの範囲に散乱。この高度は多くの通信衛星や地球観測衛星がある“宇宙銀座”で、NASAのハッブル宇宙望遠鏡も周回している。



 日本人宇宙飛行士、若田光一さんが間もなくスペースシャトルで高度400キロの国際宇宙ステーション(ISS)に行き、長期滞在をする予定なので気になる宇宙事故だが、幸い高度が違うので、今回の破片がシャトルの飛行やISSに影響を及ぼす可能性は低い。


 増加する宇宙ごみ(スペースデブリ)

 しかし、宇宙ゴミの脅威は年々増している。約半世紀に及ぶ宇宙開発で、これまでに約6000基の衛星が打ち上げられており、地球の周りには13000個もの人工物が飛び交っているという。寿命が尽きた廃衛星やロケット最終段の残骸などである。大きなものは地球から監視しているが、問題はレーダーにとらえられない直径10センチ未満のゴミ。この小さなゴミはケタ違いに多いと考えられている。

 宇宙ゴミは、弾丸より速い秒速8キロ前後の猛烈なスピードで飛んでいるので、運動エネルギーもすごい。運動エネルギーは速度の2乗に比例するから、直径1センチのゴミでも人工衛星を貫通してしまう。直径が10cmほどあれば宇宙船は完全に破壊されてしまう。

 1mm以下の微小デブリとの衝突などは頻繁に起こっており、現在はきわめて日常的な出来事だ。1996年にスペースシャトル・エンデバーのミッション (STS-72) で若田光一宇宙飛行士が回収した日本の宇宙実験室 (SFU) には、500箇所近い衝突痕が確認された。

 こうした10cm以下の小さな宇宙ゴミは、これまでどうやって増えてきたのだろう?


 ブレークアップ(爆発)

 人工衛星や多段ロケットの最終段などが軌道上で爆発することを「ブレークアップ」という。1961年から2000年までに163回のブレークアップが起きており、多い時は1回で数百個から千個以上(観測可能なものだけで)のスペースデブリが発生した。

 1984年1月、アメリカが衛星攻撃兵器の実験を行った。F-15戦闘機から発射されたミサイルを目標衛星に命中させることに成功したが、破壊された衛星の破片が大量のデブリとなって残留した。

 2007年1月、中国が弾道ミサイルを使った老朽化した人工衛星の迎撃実験を行った。この結果、一時的に700個前後のデブリが発生したと見られており、NASAは脅威ではないとしながらも、その一部が軌道上に残る可能性があると懸念を表明した。これを受け、国連では宇宙空間で人工衛星を破壊することを禁じる法案を採択することになった。


 衝突による事例

1981年にはコスモス1275が破壊されて300個以上のデブリとなったが、この衛星には圧力容器のような爆発の原因となりうる内部構造が無いため、デブリとの衝突が疑われている。

 1996年にはフランスの人工衛星セリース (Cerise) がデブリと衝突し、衛星の一部が本体からもぎ取られて新たなデブリになっている。衝突の相手は1986年にアリアン・ロケットが破壊された際のデブリのうちの一つであり、カタログ物体同士の初の衝突であった。

 2006年にはロシアの静止衛星エクスプレスAM11 (Express-AM11) がデブリとの衝突によって機能不全に陥り、静止軌道から墓場軌道へ移動させられた。

 2007年2月11日、シベリア北部の上空およそ800キロの軌道を回っていたアメリカの衛星携帯電話会社の通信衛星と、現在は使われていないロシアの軍事衛星とが衝突した。


 スペースデブリの監視

 このような衝突を防ぐことを目的として地球近傍のデブリ等を観測する活動はスペースガードと呼ばれる。

 北アメリカ航空宇宙防衛司令部 (NORAD) の宇宙監視ネットワーク (SSN) 、ロシアの宇宙監視システム (SSS)などでは約10cm以上の比較的大きなデブリをカタログに登録して常時監視が行われており、日本でも美星スペースガードセンター(BSGC)、上斎原スペースガードセンター(KSGC)の2施設でデブリの監視が行われている。

 カタログ登録されたデブリの数だけでも約9,000個に及び、1mm以下の微細デブリまでも含めると数百万とも数千万個とも言われる。

 カタログ化された大きいデブリとのニアミスを事前に予測して回避するのは可能であり、またmm単位のデブリなら宇宙船の方にバンパーを設けることで衝突した時のダメージを軽減できるが、その中間の大きさのデブリへの有効な対処は難しい。

 スペースデブリは減らせるか?

 デブリを減らすためには、使用済みのロケットや人工衛星を他の人工衛星と衝突しない軌道(墓場軌道)に乗せるか大気圏突入させる、デブリを何らかの手段で回収するなどの対策が必要である。

 これらの対策は少しずつ開始されているが、小さなデブリを回収する手段については(レーザーで溶かしてしまうというものまで含めて)様々な方法が提案されているものの、まだ実用化されていない。

 基本的なデブリ対策としては、地上におけるゴミ問題と同様に、ゴミを出さない(発生させない)ようにするのが最良策である。

 国連は2007年2月、寿命を迎えた衛星は、燃料があるうちに大気圏に向けて軌道を変更し、ごみとして宇宙に残さないよう求めた。


参考HP Wikipedia「スペースデブリ」・YOMIURI ONLINE 

国際宇宙ステーションとはなにか (ブルーバックス)
若田 光一
講談社

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宇宙のゴミ問題―スペース・デブリ (ポピュラーサイエンス)
八坂 哲雄
裳華房

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