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日本のノーベル物理学賞
日本人ノーベル物理学賞受賞者は何人いるだろう?

正解は7人である。1949年に湯川秀樹氏、1965年には朝永振一郎氏、1973年江崎玲於奈氏、2002年小柴昌俊氏、2008年南部陽一郎氏、小林誠氏、益川敏英氏が受賞している。ただし南部陽一郎氏は1970年に米国籍を取得している。

このうちの6人は素粒子物理学といわれる分野の研究者である。素粒子とは物質を構成している最小の単位。終戦直後の日本には研究施設は残っておらず、あるのは紙と鉛筆だけ。湯川博士のノーベル賞受賞以後、日本の優秀な頭脳は紙と鉛筆だけでも研究が可能な素粒子物理学に集まった。こうした分野で6人もの受賞者がでるのはすごいことだと思う。

「素粒子」は何の役にも立たない?
一方、「素粒子を研究しても、世の中の役に立たない」などという言葉もよく聞く。これだけ日本人の物理学者が活躍しているというのに、これは残念なことだと思う。素粒子の意味を知るということは、宇宙の成り立ちを知ることであり、私たち自身の意味を知ることでもある。

たしかに素粒子の最先端であるクォークなどは、もはや目には見えないどころか、単独で取り出すことすらできないほど小さく、まさに雲をつかむような話だ。例えていえば、宇宙人がいるかどうかを証明するのが、難しいのに似ているだろうか。「宇宙人がいるというなら証拠を見せろ」などと言われてしまえば、もはや議論が続かず。まさに雲をつかんだかどうかの話で終わる。

ところが、クォークは世界の物理学者が共通に話題にし、存在が確実だというのだからそこに意義がある。これを一般の人が理解できないからと言って、そのままにしておくにはもったいない話だと思っていた。

2009年2月浅間山の火山活動を透視
先日、浅間山の噴火があったときに、東京大学地震研究所の田中宏幸氏の研究グループは、宇宙から地上に降り注ぐ素粒子「ミューオン」を観測できる特殊な装置を使って、浅間山をレントゲンのように透視することに成功した。その結果、今回の噴火ではマグマは上昇しておらず、小規模な水蒸気爆発であったことが分かった。

「ミューオン」は素粒子「レプトン」のなかまで、宇宙からやってくる宇宙線が大気にぶつかってできる素粒子だ。地上にとどく宇宙線の中で最も多い。わたしたちの身の回りにも、さまざまな方向に、手のひらくらいの面積当たり1秒間に1個くらいの割合で飛んでいる。

密度が低い物質は通り抜け、マグマなど密度が高い物質にぶつかると消滅するため、山を通過する粒子を観測することでレントゲン写真を撮るように内部を探ることができる。

素粒子の世代とは?
ちなみに、2002年ノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊氏が観測したのは「ニュートリノ」であったが、こちらの方は「ミューオン」よりも質量が小さく、もっと透過性が高い。マグマがあってもまっすぐ通過する。

素粒子にも質量に違いがある。質量が小さいものから第1世代、第2世代、第3世代と3段階に分けられる。電子は第1世代。ミューオンは第2世代、タウは第3世代といった具合だ。ニュートリノも、電子ニュートリノ、ミューオンニュートリノ、タウニュートリノと世代が違う。これら3つのニュートリノは、互いに変化する「ニュートリノ振動」のあることが分かっている。なぜ、このような階層構造があるかについてはは、まだ分かっていない。

2008年11月ビルの耐震偽装を透視
「ミューオン」のこの性質は建築の分野でも利用されようとしている。

2005年11月に発覚した、マンションの耐震偽装問題。建物の柱に入っている鉄筋の数を意図的に減らし、耐震強度を偽装して販売した事件である。もし、見ることができないかべや柱の中の様子が、わかっていたらこのような事件は起きなかったかもしれない。

2008年10月、浅間山の噴火を調べた東京大学地震研究所の田中宏幸氏のグループは、宇宙 から地球に飛んでくる「ミューオン」を利用して、鉄筋コンクリートの建物の中の鉄筋をさぐることに、世界で初めて成功している。

鉄筋コンクリートの建物は、鉄筋とコンクリートとが一体となったものでつくられる建物。本来は安全な建物のはずが、偽装問題で不安なものになった。しかし、外見だけではどの建物が安全かわからない。そこで、田中宏幸氏は、自分の研究分野の一つである宇宙線ミューオンが生かせるのではないかと考えた。

「ミューオン」の鉄を通りぬける時に曲がる性質を利用して、鉄筋コンクリート内部の鉄筋のようすを見る装置を考えた。この装置では、鉄筋コンクリートを通りぬける「ミューオン」の数を調べることができる。鉄筋があるところでは「ミューオン」が曲がるので、観測できる「ミューオン」の数が少なく、鉄筋がないところでは「ミューオン」がまっすぐ通るので、「ミューオン」の数は多くなる。実際に、この装置を使ってミューオンを観測したところ、予想どおりの結果が得られた。

参考HP Wikipedia「ミューオン」「レプトン」「クォーク」 ・かがくナビ「素粒子ミューオンでかべや柱の中の鉄筋の様子がわかる!」・地震研究所「2月2日の浅間山噴火に関するミューオン解析結果


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