耳のもうひとつのはたらき
耳のはたらきというと、もちろん音を聞く「聴覚」である。しかし、それ以外にもはたらきがあるのだが、意外に知られていない。それは何だろう?
正解は「平衡感覚」である。体の傾斜や直線加速度、回転などの「平衡感覚」を感受する。「5感」というと視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚であるが、6番目の感覚である。よく第6感というと超能力的な感覚をいうが、これとは違うので注意したい。
複雑な耳のつくり
耳の「聴覚」や「平衡感覚」を感じとるところが「内耳」と呼ばれるところである。ここは外側から見えないところにある。「内耳」は図のように蝸牛と前庭・三半規管よりなる。中はリンパ液で満たされている。
このうち「聴覚」にかかわるのは蝸牛であり、ここに音の振動を神経(蝸牛神経)に伝えるための構造がある。外耳、中耳はここへ振動を伝えるための構造に過ぎない。
他方、前庭・三半規管は平衡感覚を受容するための器官である。そのつくりは見事である。
前庭・三半規管とは?
前庭には耳石器があり、耳石という細かい石が神経細胞の上にのっていて、その石の動きで体の傾斜などや加速度を感受する。
三半規管は前半規管、外側半規管、後半規管の3つがあり、それらの器官は半円形で、互いに直角になっている。まるでX軸・Y軸・Z軸のように三次元的なあらゆる回転運動を感知することができる。
すなわち、三半規管の中のリンパ液が前後、左右、上下方向に回転する動きを、内部の神経細胞が感じ取るしくみができている。
こういう内耳のはたらきがわかったのは、つい100年ほど前のことである。いったい誰が発見したのだろうか?
内耳のはたらきの発見者
発見したのはオーストリアの耳鼻科医、ローベルト・バーラーニである。彼はこの業績により、1914年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。
ローベルト・バーラーニは医師であったが、ウィーン大学医学部で1909年耳鼻咽喉科講師につく、1914年、講師のままノーベル生理学医学賞を受賞した。
彼は始めに「めまい」の研究を行った。
「めまい」は目が回るようなくらくらとした感覚の総称である。「めまい」は当時脳などの中枢神経で起きる病状と考えられていたが、彼は「内耳」に原因のある「めまい」があるのではないかと考えた。
「内耳」に水を注入するとめまいに加え、不随意眼球運動が起こったり、温水と冷水では逆方向の眼球運動が起こることを確認。カロリー反応と呼んだ。眼球運動は三半規管を満たすリンパ液の対流によること、水の温度によって対流の方向が逆になること、三半規管内の感覚毛こそが体の位置感覚を生むことを確認してゆく。
こうして「めまい」には、神経系の場合は脳や、小脳などに問題のある中枢性「めまい」と内耳、前庭に問題のある、末梢性の「めまい」があることをつきとめたのである。この研究により内耳の「平衡感覚」が発見された。
「ローベルト・バーラーニ」とは?
ローベルト・バーラーニ(Robert Bárány、1876年-1936年)はオーストリアの耳鼻科医。1914年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。
オーストリアのウィーンに生まれる。ウィーン大学で耳鼻咽喉学を学び、1900年に卒業後、フランクフルト・アム・マイン市立病院内科に勤務する。同時にハイデルベルクで精神病学と神経学を修める。いったん内科医としての勤務を中断し、フライブルク大学精神病教室に所属し、クレペリンの助手を務める。
1902年にはウィーン総合病院で今度は外科医としての訓練を積む。1903年にはウィーン大学医学部外科学教室に就く。1905年には本来の耳鼻科に戻り、耳鼻科教室に入り、耳鼻科学の創始者と呼ばれたH・デヴィッド・ポリッツアーの助手となる。
1909年耳鼻咽喉科講師、1914年、講師のままノーベル生理学医学賞を受賞した。その年に始まった第一次世界大戦には軍医として従軍、ロシア軍の捕虜となる。しかしながら、病に倒れたため釈放され、大戦が続くなか、1917年にはスウェーデン中部にあるウプサラ大学耳鼻咽喉科の講師となった。
1924年、同国政府から名誉博士号を受ける。1927年同大学で教授に就任した。1936年、同国で死去。
ノーベル賞を受賞したバーラーニの研究は1905年にポリッツアーの助手としてウィーン大学耳鼻科教室に就いたときに始まった。1906年には耳に問題がないもの、耳に一時的な障害が起こっているもの、生まれつき耳が聞こえないものを比較し、めまいの研究を進めた。
1907年には研究結果を掲載した「人間の三半規管の生理ならびに病理について」を出版している。これを応用し、水を使った試験によりさまざまな耳の疾患を診断する手法を確立した。内耳のほか、運動を司る小脳の研究も進めた。
三半規管の研究を応用し、飛行機の操縦適性を調べるための試験用椅子を考案している。
参考HP Wikipedia「めまい」「ローベルト・バーラーニ」 「内耳」
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