ノーベル賞の中の金字塔

 歴史に名を残す科学者たち。彼らの残した業績は現代に引き継がれ、私たちの身の回りの生活に活かされている。彼らの研究はけっして栄光ばかりではなかった。地道で弛まぬ努力があったからこそ、結実したのだ。ただ、むやみに努力しても、なかなか実を結ばない。自分の興味・関心にあった努力を積み重ねたのである。

 第15回ノーベル物理学賞は「X線による結晶構造解析に関する研究」に贈られた。この受賞には、100年以上の長いノーベル賞の歴史の中でも、今も破られない、素晴らしい記録がいくつも残っている。それは何だろう?



 正解は、親子による受賞であること、また、息子のローレンス・ブラッグの25歳での受賞は、最年少記録になっていることである。また、前年の物理学賞の研究も「X線回折現象」であり、2回続けて同じ分野の研究というのも珍しいことである。いったい何が違うのであろう?


 ノーベル賞の中に2つ「X線回折の研究」

 まずこの「X線回折の研究」、1914年と1915年ではどこが違うのだろうか?調べてみることにする。

まず受賞者であるが、1914年はドイツの物理学者マックス・フォン・ラウエである。一方1915年はウィリアム・ヘンリー・ブラッグとウィリアム・ローレンス・ブラッグの親子である。

 次に受賞理由は1914年は「結晶によるX線回折現象の発見」、1915年は「X線による結晶構造解析に関する研究」と若干違う。この2つは、いったいどこが違うのだろうか?

 調べてみるとラウエの方は、結晶にX線を当てると回折することを発見。X線が電磁波であることを発見したと同時に、結晶によって回折像が違うことを発見した。この時、彼は回折は結晶と結晶のすき間を通るときに起きると考えた。通常の回折現象はすき間で起きる現象であるから、当然のように思えた。


 ブラッグの法則の発見

 ところが、ウィリアム・ローレンス・ブラッグは、結晶の表面でX線が反射するときに、回折が起きると考えた。

 結晶のように周期的な構造を持つ物質に対して、ある波長の光をいろいろな角度から照射すると、ある角度では強い光の反射が起こるが、別の角度では反射がほとんど起こらないという現象を観測できる。

 これは物質を構成する原子により散乱された光が、結晶構造の繰り返しによって強めあったり、打ち消しあったりするためであり、これをブラッグの法則という。

 例えば、コンパクトディスク(CD)の表面に、白色光である日光を当てると、虹色の模様が観測できる。CDの向きをいろいろ変えて実験すると、角度によって特定の色が反射されていることがわかる。これは様々な波長をもつ光のうち、その角度でブラッグの条件を満たすような光のみが強く反射されているのである(色は光の波長によって決まる)。


 ブラッグ親子の葛藤

 1912年にウィリアム・ローレンス・ブラッグは、このブラッグの法則(反射条件)を発見したのである。ブラッグの式は結晶構造のX線解析の基本となるものであった。

 1913年に父親である、ウィリアム・ヘンリー・ブラッグは、息子のウィリアム・ローレンス・ブラッグの考えをもとに、実験装置を組み立てて、これを実証した。

 そして2人に、1915年のノーベル賞を贈られることになった。親子での受賞は素晴らしいし、端から見てもほほえましい光景であるが、授賞式の日に2人の親子が言葉を交わすことはなかったという。なぜか?

 1895年、息子の腕の骨折を知った父が、その直前に知ったヴィルヘルム・レントゲンによるX線の発見を思い出し、これを息子の検査にX線を用いた。当時フラッグ親子はオーストラリアに住んでいた。

息子は優秀であった。18歳で早くもアデレード大学を卒業し、父がイギリスに移ったのを機にケンブリッジ大学に入学した。ここも2年で卒業し、父とともにX線回折による結晶構造の研究を開始、1912年にブラッグの法則(反射条件)を発見した。

 父は息子の理論を実験装置を工夫して、実証する役まわりであった。論文では親子の共同研究として、名前が書かれていた。1915年ノーベル賞の受賞が決まったが、マスコミが讃えるのは、父親ばかり...息子は思った。「この研究は、私のものなのになぜ父ばかり、もてはやされるのか?」

 ノーベル賞受賞後、2人はともに協力して研究することはなかったという。その後優秀な息子は、1948年頃にはX線によるタンパク質構造の研究に関心を持ち、この分野の発展、さらにはデオキシリボ核酸 (DNA) の二重らせん構造発見のきっかけとなった。


 ブラッグの法則とは?

 ブラッグの法則(Bragg's law)は、光の回折・反射についての物理法則。

結晶のように周期的な構造を持つ物質に対して、ある波長の光をいろいろな角度から照射すると、ある角度では強い光の反射が起こるが、別の角度では反射がほとんど起こらないという現象を観測できる。

 これは物質を構成する原子により散乱された光が、結晶構造の繰り返しによって強めあったり、打ち消しあったりするためである。ブラッグの法則は、光の波長と結晶構造の幅、および反射面と光線が成す角度の間の関係を説明する。

 上の図は単色光(ひとつの波長からなる光)の場合であるが、白色光(複数の波長が混ざった光)でも効果を体感することができる。コンパクトディスク(CD)の表面に、白色光である日光を当てると、虹色の模様が観測できる。CDの向きをいろいろ変えて実験すると、角度によって特定の色が反射されていることがわかる。これは様々な波長をもつ光のうち、その角度でブラッグの条件を満たすような光のみが強く反射されているのである(色は光の波長によって決まる)。

 次の関係式をブラッグの条件と呼ぶ。   2dsinθ = nλ

 ここで、d は周期構造の幅、θ は結晶面と光線の間の角度、λ は光の波長、n は整数である。この条件が満たされているとき、光は回折される(進路を変える)。ただし入射角と反射角は等しいものとしている。


参考 HP Wikipedia「ブラッグの法則」「ウィリアム・ヘンリー・ブラッグ」「ウィリアム・ローレンス・ブラッグ」・サイエンスチャンネル「ブラッグ


結晶学概論 (1953年)
W.L.ブラッグ
岩波書店

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原子の科学 宇宙をつくるものアトム (科学入門名著全集)
ウィリアム・ヘンリー ブラッグ,板倉 聖宣
国土社

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