
マングース本土上陸?
2009年6月22日、鹿児島県は、鹿児島市喜入地区でマングースの生息を確認した。県自然保護課は侵入経路について、違法飼育のペットが逃げたか、貨物などに紛れ込んできたかのいずれかと推測した。
7月5日と翌6日には、同じく鹿児島市喜入地区内に仕掛けられた罠にかかり、県本土では初めて生きた状態で捕獲された。 同地区では3年ほど前から目撃情報が多発していたようであり、今回、相次いで罠にかかったことから、多数生息している可能性がある。
鹿児島県は7月16日、目撃情報が多い鹿児島市喜入地区で駆除に向け、住民からの聞き取り調査を始めた。目撃情報を基にワナを増やし、駆除を本格化させる方針だが、この日も1匹をワナで捕獲した。県が1日にワナを設置後4匹目。
特定外来種?「マングース」
聞き取り調査は喜入地区の5000人を対象に11月までに実施。県に委託された調査員が住民らに、マングースと間違えやすいイタチ、テンの写真を示しながら、目撃や農作物被害情報を尋ねた。調査に応えた農業男性(60)は「1、2年前から、10回以上見た。イタチと思っていたが、写真を比較すると、マングースだった」と証言した。
マングースは繁殖力が強く生態系を破壊するとして、法で「特定外来生物」に指定され、沖縄県と、鹿児島県・奄美大島では駆除が進められている。県自然保護課は「夏場は繁殖期のピークを迎えるため、早急な対応が必要」と話している。(毎日新聞 7月17日)
マングースというと、沖縄や奄美大島でハブ対策の天敵として、数十匹が放たれたはずだが、現在「特定外来生物」に指定され、駆除の対象になっているという。いったいどうなっているのだろう?
ハブの天敵「マングース」
マングースはインド原産の食肉目の動物で、コブラの天敵として知られている。ジャコウネコ科の雑食獣で、主にネズミや鳥、昆虫などを食べる。日本には、1910年、インドから輸入された21匹のマングースが沖縄本島に持ち込まれたのが始まり。その後、奄美大島でも30匹が放たれた。
数十年前までは「ハブとマングースの戦い」と称したショーが、沖縄や奄美では人気であった。マングースはハブの攻撃を巧みにかわし、頭にかじりついた。「これは、たのもしい動物がいたものだ。きっと自然界でもハブを絶滅させてしまうにちがいない」と思われた。
あれから数十年、マングースは自然繁殖を繰り返し、推定生息数数万頭に増えた。現在、特定外来生物に指定され駆除の対象である。そして、島全域に広がる勢いだという。一方ハブの方はどうなったろう?さぞかし、数が減ったのだろうと思われたが...
奄美大島で過去最大のハブ
2009年7月18日、奄美大島で過去最大のハブが捕獲された。体長2.26メートル、体重3.15キロのハブで、奄美市の奄美観光ハブセンターに持ち込まれた。島内での捕獲例では体長、体重とも過去最大といい「日食を前に出てきたのか」と話題になっている。
同センターによると、巨大ハブは雌で、16日夜に同市住用町の山中で捕獲された。胴回りは最大約20センチあり、2キロ程度の小動物なら丸のみできるという。従来の記録は体長2.15メートル、体重2.45キロ。50年以上ハブを買い取っているセンターの中本英一所長(78)も「2メートル級はめったにない」と驚く。(毎日新聞 2009年7月19日)
もし、ハブが減っているならこんな過去最大級のハブなど捕まるわけがない。そう、ハブは現在も奄美大島と徳之島に推定8万匹が生息。両島で毎年70人前後がかまれ、2004年には死者も出ている。現在も大量に生息している。
マングース導入の意外な結末
マングース導入の結果は惨めなものだった。肝心のハブは食べず、ニワトリやアヒル、野鳥などを襲いながら次第に数を増やしていったのだ。そして、ついに沖縄にしかいない貴重な生き物・ヤンバルクイナが生息する森林地帯にまで範囲を広げた。
一方、奄美大島は沖縄本島より深刻だ。奄美大島は「東洋のガラパゴス」と呼ばれるほど、古くから生き続けている珍しい動物が多い。アミノクロウサギは、奄美大島、徳之島だけに生息する体長50センチほどの黒いウサギで、国の天然記念物に指定されている。
マングースは、このアミノクロウサギやトゲネズミ、ケナガネズミ、ルスリカといった天然記念物の減少・絶滅へと追い込む皮肉な結果を生んでしまったのだ。マングースの糞の中から、こうした動物たちの毛や羽が見つかり、明らかにかみ殺したとわかる死骸も見つかっているという。
人智を越える自然の摂理
こうなったのは、ハブとマングースの活動時間の違い。ハブは夜行性だが、マングースは薄明性。つまり時間的に住み分けている。また、危険を冒してまでハブを捕食しなくても、他に簡単に獲れる動物がたくさん生息しているため、そちらを狙ってしまうのは当たり前の話だった。
奄美大島では、マングースの放獣以前に、ハブ駆除のために2,363頭のホンドイタチが放されたが、すぐに絶滅してしまった模様。ハブに逆に食べられてしまったという。
また、30年ほど前は見物できた「ハブとマングースの決闘ショー」。これならマングースがハブを絶滅させるだろうとも思われた。考えてみれば、あのころにはもうあまり効果のないことが分かっていて、見せ物にするしかなかったのかもしれない。現在、動物愛護の法律改正により、動物同士の殴る・かみつくなどといった血を流す戦いが禁止されており「ハブとマングースの決闘」も見られなくなった。
自然の摂理の前では、人間の知恵などたかがしれている。「もっともっと自然について、我々は謙虚に学ばなければならない」ということなのだろう。
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