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「温室効果ガス25%削減」と太陽電池
鳩山由紀夫総理が、2020年までの日本の温室効果ガス削減目標(中期目標)として「1990年比25%削減」を表明した。この目標を達成するには新エネルギーの導入が不可欠だ。政府は太陽光発電が現状の55倍(政府目標では20倍)が必要だと説明する。
そして、太陽電池のエネルギー変換効率も上げて行かねばならない。どんな種類の太陽電池があるのだろう?
これには大きく分けて3つのタイプがある。シリコン系と化合物系そして有機系である。シリコン系はシリコン半導体を使ったもの、化合物系は化合物半導体を使ったもの、有機系は色素を使って太陽光を電気エネルギーに変換する。エネルギー効率はシリコン系で最大40.7%、化合物系で25.1%、有機系で10.4%と小さくなる。
製造が簡単で材料も安価なものは有機系である。有機系のうち色素増感型は色はカラフルで、エネルギー効率も高いが、電解液を使うため、液の蒸発や操作性に問題がある。有機被膜型は薄く柔らかいため、柔軟性や寿命の上で有利であるが、エネルギー効率が低いなどの問題があった。
「有機薄膜太陽電池」に新製法
今回、東京大学大学院理学系研究科の研究グループが、これまでより安い製法でエネルギー変換効率が高い有機薄膜太陽電池をつくることに成功した。今回の方法でつくられたものは、エネルギー変換効率も5.2%と高く、大量生産しやすいことから、実用化により適した製法だという。
有機薄膜太陽電池では、導電性ポリマーやフラーレンなどを組み合わせた有機薄膜半導体を用いる。今回は電子供与体ポリマーとして「テトラベンゾポルフィリン」、電子受容体として、新たに開発した「フラーレン誘導体」を使った。
今回工夫したのは有機被膜半導体に重要な接合部分である。テトラベンゾポルフィリン前駆体と、新規に開発したフラーレン誘導体「SIMEF」を用いて、きっちりとした p-i-n構造(カラム/キャニオン構造)を接合部に造った。
「テトラベンゾポルフィリン」のキャニオン構造
「テトラベンゾポルフィリンの前駆体」は溶媒に可溶で「フラーレン」と混ぜて電極に塗る。180℃まで加温すると、前駆体から溶媒に不溶な「テトラベンゾポルフィリン」へ熱転換した。このとき、テトラベンゾポルフィリンの柱状結晶が生け花の剣山のように林立する理想的な3層構造ができた。この構造を「カラム/キャニオン構造」と名づけた。
これまでは、費用が高くつく共蒸着という方法を用いて接合していたが、今回の方法なら、塗布、加熱という簡単な方法ですむ。エネルギー変換効率も5.2%と高く、大量生産しやすいことから、実用的な方法である。
「フラーレン」のカラム構造
一方、これまでグループで行ってきたフラーレンの化学修飾の知見を活用し、新しい電子受容体「SIMEF」を開発した。SIMEFは150℃付近に結晶化温度をもち、結晶化後はフラーレンコアがカラム状に並ぶハニカム型の結晶充填構造を形成する。
これにより電子が流れやすい状態となり、高いエネルギー変換効率の実現に寄与することができる。フラーレン誘導体としては、PCBM(フェニルC61酪酸メチルエステル)誘導体あるいはフラーレン(C60)そのものを電子受容体として用いるのがこれまでの主流であり、新規材料の設計から、分子集積構造の制御、デバイスの作製評価まで一貫して研究を行うことは希有であった。
そのため、有機半導体材料の中でも特に電子受容体の開発と、電子供与体と電子受容体が形成するバルクヘテロ接合型構造の精密制御がボトルネックになっていた。
今回の成功の鍵は、電子供与体を形成するCPからBPへの熱変換という反応であり、これをバックアップしたのが電子受容体として開発したSIMEFである。
今世紀の課題「環境・エネルギー問題」
その協働効果の鍵の1つは、ナノ構造を形成する結晶化温度にあり、2つめは最適な分子軌道を有するフラーレン誘導体の設計にある。とくに、前者の熱的変換挙動の問題は、これまで全く議論されていなかったポイントと考えられ、有機合成化学の実力が試されるところである。
開発した新規フラーレン誘導体「SIMEF」は高収率で大量合成に対応でき、また塗布型は真空蒸着型に比べより安価な薄膜作成プロセスであるので、数年後にはフレキシブルな有機薄膜太陽電池を低コストでどんどん供給することも可能になると考えられる。
低環境負荷を特徴とする新エネルギー源である有機薄膜太陽電池の研究が一層進展することにより、今世紀の課題である環境・エネルギー問題の解決へ向けての貢献が期待される。
参考HP サイエンスポータル 「実用化に適した有機薄膜太陽電池製法開発」
東京大学・科学技術振興機構「高効率化に挑む 新型有機被膜太陽電池」
アイラブサイエンス 「シリコン形太陽電池」・「化合物系太陽電池」
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