分散系とは何か?
固体のものと、液体のものを混ぜるとどうなるか?例えば水と土砂を混ぜると、ふつうは重たい土砂はしだいに下に沈んでいき2つに分かれる。
固体は粒子の大きさが2mm以上が「れき」、2mm〜1/16mmだと「砂」、1/16mm以下だと「泥」というが、さらに分けると1/16mm〜4μmを「シルト」、4μm以下を「粘土」といい、だんだん細かくなる。(1μmは1/1000mm)
よくサラサラした砂という。細かい「粘土」は乾いていればサラサラしているが、水と混ざるともはや容易に動かない。どろどろとして高い粘性を持つので、粘土細工や陶器に利用される。
このように液体に粒子の細かい固体が混ざると、単なる固体、液体、気体に分けられない第4の状態ともいうべき「流体」という、粘性の高い新しい性質が現れる。
さらに細かい、0.001〜1μm(1nm〜1000nm)程度の粒子が、気体、液体あるいは固体に混ざった状態を分散系という。粒子の大きさが1μm以下の分散系では、重力よりも粒子どうしの力が大きくなり、独特の粘性を持つ不思議な現象が起きる。通常、物体は加えた力に比例して、変形が大きくなる。これをニュートン流体というが、分散系では、この粒子同士にはたらく力のため、力に比例しない変形がおきる。これを非ニュートン流体という。
非ニュートン流体の例として「ダイラタンシー」や、「チキソトロピー」がある。「ダイラタンシー」では、物質にはたらく力が小さければ液体状に、力が大きければ固体状になる性質がある。
分散系と溶液の違い
「分散系」とは0.001〜1μm(1〜1000nm)程度の粒子が、気体、液体あるいは固体に浮遊あるいは懸濁している物質の状態であった。ところで、「溶液」とは、2つ以上の物質から構成される液体状態の混合物のことである。一般的には主要な液体成分の溶媒と、その他の気体、液体、固体の成分である溶質とから構成される。
では「分散系」と「溶液」の違いは何だろう?
「分散系」の定義によれば、「溶液」はその中にはいると考えてもいい。日常的に考えても「分散」は散らばって存在するということだからイメージは合う。
水溶液を考えてみよう。溶質は固体や液体の場合を考える。溶けている状態とは普通「溶質の成分粒子が溶媒の中に均一に分散すること」である。分散しているのだから水溶液は、分散系と考えてよい。実際、「コロイド溶液」とは分散系の中で分散媒が液体のものをいう。そして分散質が均一に混ざっている。
あとは「分散質がどの程度のレベルまで小さくなっているのか」が問題だ。そのあたりの定義を考えてみよう。分散系の分散質の大きさは1nm以上とされている。
コロイド溶液
コロイド溶液のサイズが1nm〜とされているのは、チンダル現象が引っかかってくるから。小さな分子が0.1nm程度の大きさであることからすると1nmのサイズの粒には1000個程度の分子またはイオンが含まれていることになる。見かけは溶液と変わらないのにチンダル現象に引っかかってくる溶液はGrahamのコロイド。サイズが光の波長よりも小さく透明に見える。
分子のレベルまでバラバラになっていても一つの分子が大きいためにコロイド粒子の特徴を示すという場合もある。タンパク質などの高分子の場合である。
タンパク質やでんぷんは分子コロイドと分類されることもある。濁っていて、不透明である溶液は光の通過をじゃまするだけのサイズの粒子が分散していることがすぐに分かる。
普通は濁っていたり、不透明であると、やがて沈殿し分離する。ところが、濁っていても分離してこない溶液が、コロイド溶液なのだ。
では、コロイド溶液にはどんなものがあるか?
正解は、牛乳、マヨネーズ、インク、のり、塗料、海の泡、血液などである。このうち血液は、血球成分(細胞性成分)と血漿成分(液性成分)からなり、その比率は 45:55 である。また、血球成分(重量比)は赤血球96%、白血球3%、血小板1%で構成される。血漿成分は水分96%、血漿蛋白質4%、そのほか微量の脂肪、糖、無機塩類で構成される。
「タンパク質分子」の発見
20世紀はじめ、タンパク質はいわゆる「分子」ではなく、コロイドの一種だと考えられていた。血液中の赤血球の中には、ヘモグロビンというタンパク質が含まれている。ヘモグロビンは色がついているので、タンパク質の実験ではよく使われていた。
「超遠心分離器」と「コロイド」の大家であった、スウェーデンの化学者「テオドール・スヴェドベリ」がタンパク質の超遠心分析を行った。タンパク質を含むコロイドを遠心分離すると、重たい分子から順に沈んだ。
実験を重ねた結果、最終的にはタンパク質はコロイドではなく、同一の質量を持つ「分子」であることを発見した。しかも、その当時の常識からすると桁外れに巨大な「分子」であることがわかった。
一連の研究で、スヴェドベリはヘモグロビン、フィコエリスリンとフィコシアニンをしばしば使ったが、中でもフィコエリスリンとフィコシアニンは、色が濃い上に分子量が大きくて分散しにくく、超遠心での分析に適していた。スヴェドベリは、これらの分散系の研究に対し、1926年ノーベル化学賞を受賞する。
日本人留学生
ところで、スヴェドベリのもとで研究をした日本人がいる。1925年に東京帝國大學(現東京大学)工学部を卒業した桂井富之助である。桂井は、大学で冶金学(金属工学)を専攻していたことから、理化学研究所に入って鉱石の研究を始めた。
桂井は知的好奇心が旺盛な人物で、昼間は職場で鉱石の研究を行う一方、自宅では専門の冶金学だけでなく化学などさまざまな分野の本を読んで自習していた。その中でも、桂井は特にコロイド化学と物理化学に興味をかき立てられ、数多く読んだ本の中にはスヴェドベリのコロイドに関する著書が含まれていた。
そして1927年、桂井はコロイド化学者になることを決心し、スヴェドベリの研究室に留学することになった。そして、彼がそこで研究したのは海苔である。それも、ユニークなことに、海苔の材料にする藻類などではなく、おにぎりや海苔巻きに欠かせないおなじみの乾物、板海苔そのものを使った。
1929年の論文の「Preparation of Material」に、「The Japanese product, "Nori," which consist of dried Porphyra tenera(乾燥させたPorphyra teneraで作られた日本の製品「海苔」)」とわざわざ明記してある。その量が何と、2800グラムも使ったと書かれている。現在の一般的なサイズの海苔は1枚3グラム程度なので、ざっと900枚以上になる計算だ。
テオドール・スヴェドベリとは?
テオドール・スヴェドベリ(Theodor Svedberg, 1884年〜1971年)はスウェーデン王国ヴァルボ出身の化学者。1926年にノーベル化学賞を受賞した。
主としてコロイド溶液、特にタンパク質などの高分子のコロイド溶液の性質に関する研究を行った。その研究を通じ、遠心分離によるタンパク質の分子量の測定を行っている。これらの分散系の研究に対し、1926年、ノーベル化学賞を受賞した。受賞理由は「分散系に関する研究」である。
また、1929年にヘモシアニンを発見している。この分子は下等生物(イカなど)の血液に含まれ、高等生物におけるヘモグロビンのように酸素輸送を担う青っぽい物質で、銅イオンを含んでいる。
彼の功績をたたえ、沈降係数の単位にスヴェドベリの名が与えられている。(Wikipedia)
参考HP Wikipedia「分散系」「コロイド」「血液」「テオドール・スヴェドベリ」・GEヘルスケア・ジャパン株式会社「生化夜話 第12回:鮮やかな赤と青が決め手」
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