ガンマ線バーストと重い銀河
宇宙で起きる最も激しい爆発現象で、謎の多い「ガンマ線バースト」が、質量の「軽い銀河」で起こるという定説と異なり、「重い銀河」で発生したことを京都大、国立天文台などが突き止めた。
地球のある天の川も重い銀河で、バーストが起こりうることを示す成果だ。
ガンマ線バーストは、数秒から数十秒の間にガンマ線が突発的に激しく放射される現象で、起源には未解明の謎が多い。
研究チームは、すばる望遠鏡(米ハワイ)を使って2008年3月、約100億光年先にあるバーストを近赤外線で観測。一帯の銀河を調べると、これまでバーストが観測された銀河より約100倍重いとわかった。
バーストの発生は、暗く軽い星が、最期を迎えて大爆発するのに伴って起きるという理論が提唱されていた。今回の観測成果はそうした考えでは説明できず、研究チームは「互いに回り合う“連星”の衝突など、新しい発生メカニズムも考えられる」としている。
最近では、今から約4億3500万年前に起こった生物大絶滅が、天の川銀河で起きたガンマ線バーストが原因であるという説も提唱されており、その議論にも影響しそうだ。
研究成果は米天文学会誌「アストロフィジカルジャーナル」電子版に発表された。(2010年7月22日15時44分 読売新聞)
ガンマ線バーストのしくみ
ガンマ線バースト(gamma-ray burst, 略してGRB と呼ばれる)は、宇宙最大の爆発とも言われる巨大で激しい爆発現象。X線よりさらにエネルギーの高いガンマ線と呼ばれる電磁波で、数秒から数十秒程度の間、突然明るく輝く。このような現象が1日に1回程度の頻度で、空のどこかで突然起こっていることがわかっている。
ガンマ線は目に見えないのでわからないが、ガンマ線観測衛星で発見されている。1970年代に発見された後、長らく謎の天体とされてきたが、1997年以降、劇的に研究が進展した。現在では、100億光年以上という遥か宇宙論的な遠方で、太陽よりも何十倍も重い星がその進化の最後に燃え尽きて超新星爆発を起こすときに発生する現象である事がわかっている。
しかしその発生頻度は普通の超新星よりずっと低い珍しい現象で、普通の超新星爆発よりずっと大きなエネルギーが放出される。そのため、GRB を伴うような巨大な超新星 (supernova) のことを極超新星 (hypernova) と呼ぶ事もある。
ブラックホールがガンマ線の原因
爆発前の星は、水素やヘリウムなどの外層がはがれた状態と考えられ、中心に鉄(Fe)のコア、その周りにより軽い元素(ケイ素 Si, マグネシウム Mg, ネオン Ne, 酸素 O, 炭素 Cなど)からなる外層がとりまいている。
中心の鉄コアが重力に負けてつぶれ、中心部に高速回転するブラックホールができる。ブラックホールには、周囲の物質が円盤状に落ち込む(降着円盤)。その際、円盤面に垂直な二方向に「ジェット」と呼ばれる細く絞られた質量放出が起こり、それらが星の外層を突き破った時にガンマ線が放出されると考えられている。
このジェットは大変な速度で、ほぼ光速(99.99%以上!)に達する。ガンマ線の放出はジェットの方向に細く絞られており、我々がたまたまそのジェットの方向にいる時だけ、ガンマ線バーストとして観測される。
なお、ガンマ線バーストには継続時間が約2秒以下のものと2秒以上のものと二つの種族に分かれるとされ、ここで説明したものは継続時間の長いガンマ線バーストのもの。短い方は、連星中性子星やブラックホールの合体とも言われているが、まだよくわかっていない。
宇宙誕生の謎に迫る
ガンマ線バーストそれ自体が大変興味深い天体だが、もう一つ、重要な役割がある。宇宙論的な遠方からでも観測可能なため、宇宙初期の星や銀河の形成活動を探ったり、初期宇宙の物理状態を調べたりなど、宇宙論研究への応用も始まっている。
今や、ガンマ線バーストは銀河やクエーサーと並ぶ重要な最遠方宇宙探索の手段となりつつある。現在までに発見されている最遠方のガンマ線バーストは、宇宙誕生後わずか10億年以内に発生したものである。(現在の宇宙の年齢はビッグバン後約140億年)
これまでのところ、GRB母銀河は非常に軽い銀河であることがわかっている。一般的に銀河の質量が小さいほどその銀河の重元素量も少ないという関係があるため、GRBは重元素量の少ない環境で発生していることを示していると言える。
またGRBの発生した場所での重元素量を分光観測によって直接測定した観測も行われており、実際に重元素量が少ないことが確かめられているものもある。このようにGRBは重元素量の少ない単独星の超新星爆発に伴うものであるという考え方が理論的にも観測的にも裏付けられつつあった (以後この考え方を単独星シナリオと呼ぶ)。
ダークGRBとは?
ところがGRBの中には可視光での残光が極端に暗かったり、全く検出できないようなGRBがあり、これを「ダークGRB」と呼んできた。ダークGRBはGRBの約半数を占めるにもかかわらず、その残光検出が困難なために、これまでほとんど研究が進んでいなかった。その正体は謎に包まれていて、この起源を明らかにすることはGRB研究における最も重要な課題の一つとなっていた。
2008年3月25日、こと座の方向に、可視光では残光が見られない「ダークGRB」が出現した。そこで、京都大学、東京工業大学、国立天文台他の研究者からなるチームは、このダークGRBの正体を探るために、すばる望遠鏡の多天体近赤外撮像分光装置を用いて、発生領域の近赤外線撮像観測を行った。その結果、このGRBの近赤外線残光と母銀河を世界で唯一発見することに成功した。
この観測はバースト発生から約9時間後に行われており、すばる望遠鏡の素早い観測体制とその集光力、そして近赤外線での観測が今回の発見に繋がった。実際に検出された近赤外線残光の明るさは、GRB残光のモデルが予想する明るさよりもはるかに暗く、このダークGRB周辺に多くの塵が存在していて、これによって残光が強い吸収を受けていることがわかった。このような多くの塵が存在する環境は重元素量の多い環境によって引き起こされると考えられている。
ダークGRBのシナリオ
同研究チームは母銀河の性質をさらに詳細に調べるために、バースト発生から約1年後にすばるの主焦点カメラを用いて観測し、可視光においても母銀河を検出することに成功した。観測した色々な波長での銀河の明るさと、銀河のスペクトルモデルとを比較することで、銀河の様々な性質を調べることができる。その結果、この母銀河は天の川銀河に匹敵する質量 (星の総質量、以下星質量) を持っており、GRB母銀河としてはこれまでに発見された中で最も星質量が大きいことがわかった。
銀河には、その星質量が大きいとその重元素量も多いという関係がある。この関係と今回の星質量を使って予想される重元素量を計算すると、GRB母銀河のうち、これまでに確認されている重元素量の中でも飛び抜けて多いことがわかった。
これまで広く信じられてきた単独星シナリオではこのような大きな重元素量を説明することは困難。大きな重元素量の環境でもGRBが発生する理論モデルとして、連星 (お互いのまわりを回っている二つの星) シナリオが提案されており、このダークGRBは連星を起源とする爆発であったことを示唆している。このことは、これまで研究があまり進んでいなかったダークGRBとよばれるタイプのものが、別のメカニズムで爆発している可能性を示唆し、GRBの種類やその発生メカニズムを知る上で重要な手がかりになる。
参考HP Wikipedia「ガンマ線バースト」・京都大学理学部「謎のダークガンマ線バーストの正体に迫る」
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